然らば青春

「仙蔵、」

文次郎はいつものように、夜が更けた頃に戸を開けて帰ってきた。そのまま音を立てずに戸を閉めて床にどかりと座り込み、大きく欠伸をする。いつも通りだ。いつもと違うのは、仙蔵が寝間着姿ではなく、しっかりと身支度を整えていること。そして先刻までそこにあった筈の荷物が消え、部屋の半分だけがやけに整然としていることであった。

「もう発つのか」
「ああ、夜明けを待たずにこのまま行く。もしかしたら別れを告げられないのではと心配したぞ」

六年生の誰よりも早く就職を決めた仙蔵。勿論、第一志望だった城仕えだ。そしてその仙蔵は、城からの要求で卒業を待たずに今宵忍術学園を離れる。この事実を知るのは教師と一部の六年生だけだった。

「これからは部屋を広く使えて嬉しいだろ」
「別に、俺は元々夜間訓練とか委員会であまり部屋は使ってねぇ」

仙蔵が立ち上がり、最後に、と大きく深呼吸をした。六年間慣れ親しんだ学び舎を、一人先に離れる。この事に関してはついに仙蔵から何か発せられることはなかったが、文次郎は知っていた。その事が決まった夜、一人肩を震わせていたことを。

「長い間世話になったな」
「…らしくねぇな」

仙蔵が戸を開ける。外は藍を塗り込めたような色をしていて、星がよく見えた。

「達者でな、文次郎」
「おう」
「倒れる前にしっかり寝ろよ」
「おう」
「敵としてはち合わせた時は手加減無しだ」
「あたりめーだろ」

「お前が同室でよかったよ…ありがとう、相棒」
「…バカたれ」

一瞬だけ、視線が交わった。そして仙蔵はふっと笑みを浮かべ、そのまま滑るように戸の向こうに消えた。戸の閉まる音、そして静寂が訪れ、文次郎は掌で顔を覆った。そのまま、朝日の光が戸の隙間から射し込むまで、身動きひとつ取ることはなかった。

互いの頬を流れた涙を相手に知らせる術もなく、時間だけが過ぎていく。二人の胸に長い年月をかけて確かに焼き付いたのは、明星の様に輝く青春の日々だった。

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忍ミュのキャストが発表されましたね。
私のずっと追いかけていたキャストさんは、ついに皆さん卒業してしまいました。
三年間、あっという間でした。
仙蔵役だった南羽さんに敬意を表して。お疲れさまでした。
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